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これからの文化政策

~ 人が生きるための文化・芸術 ~

 

 

◆講 師  中川幾郎さん(帝塚山大学名誉教授、文化政策学会初代会長

 

◆講師よりのメッセージ

 公共政策を語るとき、経済、福祉、防災、環境、安全保障などが主要キーワードとして登場してきます。しかし、文化や芸術が公共政策の重要課題として語られることがあまりないのはどうしてでしょうか。おそらく、そこには戦後一貫して追求されてきた、工業製品輸出を中心とした経済主導主義、そのピーク後の内需拡大政策に照応した余暇社会対応、余剰資源消費政策の余波が今だに作用しているように思えます。つまり、ヒマとカネがあってこその文化や芸術ではないか、とする古い思考です。

 今日では、それが誤りであることが明らかになりつつあります。公共文化政策が極めて重要であると考えることは世界先進諸国の常識であるだけではなく、発展途上国においても重要課題として意識されはじめています。この連続講座では、文化政策の重要性を再認識するため、公共文化政策の大半を担っている地方自治体の文化政策をモデルとしてその現状を見渡し、国及び地方自治体が担う公共文化政策のあるべき姿を求めていきたい、と考えています。

 

 

 

◆講座の概要

 

 

第1回(2017年12月16日(土) ドーンセンター・セミナー室)


■なぜ今、文化政策か?
 公共文化政策に関しては、カネやヒマがあっこその文化でないか、という俗論が今だに支配的であるため、公共政策としての存在認知すら乏しい面があります。地方自治体では、自治事務としての存立根拠である文化条例もなく、政策と施策、事業の体系と取組手順を示した文化基本計画もない、というのが大多数です。ここでは日本国の文化基本法が制定される以前から存在した「世界人権宣言」や「国際人権規約」ほかの人権条約に規定された文化的人権について触れます。とともに、これら条約の理念を受けて制定された「文化芸術基本法 (改訂新法)」「劇場・音楽堂等活性化法」の内容と趣旨についても触れていきます。さらにこれらを前提として、日本の文化政策論の戦後からの系譜について追跡、掘り起こし、改めて現代文化政策論の全体的な視野を確保したいと思います。

 

 

 

第2回(2018年 2月 3日(土) ドーンセンター・セミナー室)

■■文化の「まちづくり」とその担い手を考える
 文化的に生きる権利は、社会権的人権の側面と自由権的人権の側面と二つを有します。この文化的人権が保障された社会を実現していくこと、それを私は「市民文化政策」と定義し、都市や地方のアイデンティティ形成に向けた文化活用政策を「都市文化政策」と定義しています。この二つは、いずれも「文化」を媒介とした政策ですが、その基本的な思考は全く異なります。一方は福祉的な公益(Public Benefit)を追求し、一方は経済的な公益(Public Interest)を追求します。この二つが混在したままに議論されることが、多くの自治体文化政策への誤解と理論的混乱を生んでいます。「まちづくり」という言葉のあいまいさも、改めて整理しなおさなくてはなりません。この二つの政策の整理を前提としつつ、「まちづくり」としての自治体文化政策のあるべき姿、見取り図を示したいと考えています。

 

 


第3回(2018年 3月17日(土) ドーンセンター・セミナー室)


■■■文化政策をめぐる諸問題と論点を明確にする
 この回では、文化経済学の古典ともいうべきボウモル・ボウエンの理論から、ランドリー、フロリダの創造都市論に至るまで追跡し、そのうえで、文化政策をめぐるさまざまな論点を皆さまと議論したいと考えています。「生涯学習」は自治体文化政策の中でどのように位置づくのか。公共劇場・音楽堂、博物館、図書館、公民館という施設の位置づけはどうあるべきか。文化財の保全と活用は自治体文化政策と考えるべきか。公共文化施設を対象とした指定管理者制度はどうあるべきか。地方活性化のためのアートイベントをどう評価すべきなのか。観光振興と文化政策はどのように連携すべきなのか。日本の自治体版アーツカウンシルとはどうあるべきなのか。そして、市場機能と公共政策としての文化政策の対応・補完関係はどう理解すべきなのか、などです。

 

 

 

 

◆参考図書

☆中川幾郎「分権時代の自治体文化政策―ハコモノづくりから総合政策評価に向けて」勁草書房、2001

☆中川幾郎講演録「市民社会・文化・人権~文化から社会を問う」NPO政策研究所、2009

 ウィリアム・ボウモル、ウィリアム・ボウエン「舞台芸術 芸術と経済のジレンマ」芸団協出版部、

  1994(原著1966)

 デヴィッド・スロスビー「文化経済学入門」日本経済新聞社、2002(原著2001)

 チャールズ・ランドリー「創造的都市―都市再生のための道具箱」日本評論社、2003(原著2000)

 リチャード・フロリダ「クリエイティブ資本論」ダイヤモンド社、2008(原著2002)

 

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